本文へスキップ

Column

F1.5は、ほんとうにある値です

「F1.5」という名前について、ときどきご質問をいただきます。カメラのF値は、レンズがどれだけ光を取り込めるかを表す数字です。小さいほど、たくさんの光が入ります。

いまのレンズの目盛りは、1.4 の次が 2.0。その間にある 1.5 は、標準の並びからは半歩ずれています。それでこれまで「ほんの少し規格外」とご説明してきました。

ただ、無い値ではありません。それどころか、とても丁寧に選ばれてきた値でした。

2年かけて、F1.4 ではなく F1.5 が選ばれた

1950年、日本光学(現ニコン)で一本のレンズの設計が始まりました。Nikkor-S・C 8.5cm F1.5。ポートレート用の大口径レンズです。

完成までに約2年。設計図は8回引き直され、光学系の異なる試作品が7種類つくられました。そのなかには F1.4 の案もありました。けれど最後に選ばれたのは、F1.5 のほうでした。

最初に図面を引いたのは村上三郎さん。途中から脇本善司さんが引き継ぎ、収差(像のにじみや歪み)を整えていきます。ひとりの手で一度に生まれたのではなく、複数の目を通って良くなっていったレンズです。

その描写は、絞りを開けたあたりでやわらかく、線が細い。階調が豊かで、ボケがきれい。絞っていくとシャープになる——そう記録されています。

いまも、F1.5 はつくられ続けている

これが昔の話で終わらないところが、この値のおもしろさです。

2026年のいまも、F1.5 のレンズは新品で買えます。フォクトレンダーの NOKTON 50mm F1.5、HELIAR classic 50mm F1.5。技術としては F1.4 も F1.2 も、F1.0 さえつくれる時代です。それでも F1.5 が新しく設計されている。

しかも HELIAR classic は、収差をあえて残す設計だといいます。完璧に整えることよりも、味を残すことを選んでいる。

開けきる、一歩手前

1952年の設計者たちも、いまのレンズメーカーも、限界まで開けきることを選ばずに、その半歩手前を選んでいます。そこにいちばん豊かなものがあると知っているからだと思います。

F1.5 の撮影会も、上手に写る練習をする場ではありません。3人のカメラマンさんが同じ30分を撮ると、3通りの写真が返ってきます。どれが正解ということはなく、その幅そのものを持ち帰っていただく会です。

階調が豊かということは、白と黒のあいだに、たくさんの段階が残っているということ。名前に、その意味を重ねています。

参考:ニコン「ヒストリーニッコール」第19回 Nikkor-S・C 8.5cm F1.5

Next session

次回の開催を、お知らせします。

今回は日程が合わない、という方へ。次の開催が決まりましたら、いちばんにお知らせします。

LINEで受け取る

お知らせ以外には使いません。いつでも配信を止められます。プライバシーポリシー